私の好きな貫井徳郎作品ランキング

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このページの最終更新日: 2024/11/10

  1. 貫井徳郎
  2. 第一位: 修羅の終わり
  3. その他作品

貫井徳郎

アンケートフォームを追加したいと思っています。


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王冠第一位: 修羅の終わり

男性の登場人物が悪人ばかりで、読後感も悪い。しかし、自分の知らなかった世界を最初に描き出してくれた作品がどうしても心に残るので、「公安」というものに初めて触れたこの作品を 1 位にしたい。白夜行 っぽいところもあるが、もう少し全体のトーンは暗い。

文庫本なのに 800 ページ近い大長編。時系列の異なる 3 つの物語が平行して進み、それらがどのような関係にあるのかが次第に明らかになっていくストーリー。ただし、3 の物語の関係性は難解で、読後にネットで解説を探す人が多いようだ。以下もネタバレありの解説。

1, 2, 3... というそれぞれの章の中に I, II, III というサブセクションがあり、平行して 3 つの物語が進む。I は公安の久我と斎藤、II は不良警官の鷲尾、III は記憶喪失の「僕」。最後に名前が真木であることがわかるので、「真木編」と呼ばれる。

I は沖縄返還機協定の結ばれた 1971 年、II は 冒頭の美久の免許証から 1992 年。III の年代はわからないようになっており、「僕」が I の斎藤拓哉の生まれ変わりであるのかどうか、そういう超自然現象がアリの話なのかどうかが焦点の一つ。これは、III の年代が 1992 年なのかという問題でもある。最後の一行で、III は I と同じ年代であり、僕は斎藤の生まれ変わりではなかったことが確定する。

つまり、III 部の真木は I 部斎藤の生まれ変わりでなく、藤倉の命令で久我が犯した「死んだ魚の眼」の女性の弟。久我がスパイにしたのは「斎藤」で、前世かもしれないと書かれているのは「斉藤」というミスリード。

また、本文中では明言されていないが、I 部の久我の上司・藤倉 = III 部の山瀬。これは真木の姉の仇として久我を名指ししたので、ほぼ確定 (参考 1, 2)。

第 II 部の白木は、おそらく久我を刺した後に出所してきた真木。これについてはヒントは少ないが、「公安の後ろ盾」があることからまだ藤倉と繋がっていると予想される。とすると、藤倉が全編を通した黒幕ということになり、公安の存在意義を保つために、白木 = 真木を使ってテロを引き起こしているという救いのない結論になる。

ここで藤倉 - 白木 - 鷲尾ラインが引き起こしているのが爆弾テロで、これは 1971 年時点の「夜叉の爪」によるテロを彷彿とさせる。人間の愚行は繰り返され、タイトルが「修羅の終わり」なのに全然終わってないという皮肉にもなっているのかも。

その他、ネットでみつけて「なるほど」と思った情報。

  • III では公衆電話が普通に出てきており、誰も携帯を使っていないことから、1992 年ではなさそうなことがわかる ()。
  • II の冒頭で鷲尾の犠牲となる長谷川美久が久我の子供ではないかという考察 (参考)。確かに、ストーリー上のキャラの重要性を考えると、免許証を使って生年を特定したりするのはちょっと詳しすぎるという気も。名前に「久」という字が入っているのも思わせぶりだが、それをするなら久我の苗字からでなく名前からとるような気も。
  • 修羅 → 阿修羅 = 三面六臂 (参考)。これが 3 部構成の基本アイディアか? 鷲尾に無言電話していたのが誰か、結局回収されていない。

その他作品

鬼流殺生祭

明治時代を舞台としているが、作中の元号は「明詞」、ポーの「モルグ街の殺人」が実際に起こっている世界線での話。武家の三男で、病弱なためほぼ隠居生活を送っている朱芳慶尚 (すおう よしなお) を探偵役、似たような境遇の九条をワトソン役にしたミステリ。京極堂 のような雰囲気があるが、それよりもグロい場面が多い。

夏目漱石など、歴史上の人物がちょこちょこ登場する。朱芳がシュレーディンガーの猫などのウンチクを語るのは、中年研究者にとっては何度も見たことのある話で少し陳腐に思えるが、読者層によってはアリか。子供の頃は、こういうところから雑学を学んだ気がする。

不平士族。歴史では、徴兵令や廃刀令に反発して、1870 年代に九州などで起こった反乱と習った。しかし、この小説に出てくる霧生史郎のように、新時代に希望を抱いて (薩長などの出身で、出世できると思って) 東京に来たが、そうは思うようにならず不満を溜めていた士族もいたことだろう。

妖奇切断譜

導入部分がいきなりグロくて、ちょっと受け付けなかった。鬼流殺生祭の続編だが、かなり雰囲気が違う。朱芳の病気が悪化していて前回のような語りもなく、そもそも出番がかなり少ない。その分グロ描写が増えている。最後に「次巻ニ続ク」とありシリーズ化するのかと思っていたが、この二作しか出ていないようで、本作がさすがに不人気だったのではないかと思っている。

「傘」と「瘡」がかかっていて、これがヒントになっているのだが、朱芳よりも早く気づけた読者はいただろうか。

「薩摩御用盗」というのがいたらしい。西郷の指示で、江戸の治安を悪化させ、幕府への信頼を低下させるために暴れ回った狼藉者たち。全国で 500 人ぐらいいて、各地で反乱を起こしたりもしたようだ。

▼ 犯人ネタバレ

天使の屍

中学生の息子・優馬が突然の自殺。さらに同級生が相次いで謎の自殺を遂げる。子供の自殺に納得のいかない優馬の父・青木が真相の究明に乗り出す。

ビデオテープとかが出てくる古い時代の小説。真相のドラッグや裏ビデオは、自殺するほどのことでもないように思うし、成績上位の奴らを落とすため、という動機もちょっと現実味がわかない。しかし、そこがこの小説のテーマにもなっている「大人と子供の論理の違い」というものかのかもしれない。

夜想

「夜想」は日常的にはあまり使わない言葉だが、文字通り「夜に思索に耽ること」。夜想曲 (ノクターン) は、静かで瞑想的な曲のことをいう。

交通事故で妻子を亡くした雪藤は、サイコメトラー 的な力をもつ遥に出会って救われ、その活動をサポートすることになる。

娘が不良化して困っているが、自身もかなり病的な母親・子安嘉子の話とどこで関係してくるのか気になるが、なかなか絡んでこない。と思っていたら、いざ絡んできたときには、遥に切りつけるというとんでもない形だった。終盤にかけての雪藤とともに、壊れっぷりが見ていて辛いレベル。

全体に、宗教団体の立ち上げとか、その集団のなかで雪藤がどう思われているか気になる、みたいな地味な話なのだが、中盤以降のぐいぐい読ませる筆力はさすが貫井徳郎。一応は、明るい未来を予感させるハッピーエンド。

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