私の好きな島田荘司作品ランキング
島田荘司
乱読の末、ちょっと読書に飽きていた一時期があって、そのときに発見したのが島田荘司と真保祐一だった。どちらの作者も、文章がとてもシンプルかつ丁寧に書かれているように見えて、すぐに好きになったことを覚えている。
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第一位: 異邦の騎士
若さに伴う未熟さ、それに対する焦りや苛立ちから染み出してくる
舞台は昭和 53 年。良子が移り住んだ元住吉のアパートは、6 畳 + 3 畳のキッチンというサイズ。テレビも白黒。高円寺、元住吉、綱島、馬車道などの地名が出てきて、どれも非常に風情がある。
「異邦の扉の前に立った頃」と題したあとがきに、著者の心情が綴られている。これはかなり私小説的な側面のある小説で、舞台となる町はすべて著者に馴染みの深い場所。若さに伴う焦りや異邦の地に踏み込む不安は、まさに小説の世界に一歩を踏み出しつつあった著者がこの頃に抱いていた感覚のようだ。
初めて書いた小説であったが、いろいろな理由から世には 25 番目の作品としてリリース。この本を読むときは、ぜひ後書きまで注意を払って読むべし。「もうこんな苦しい、危険な仕事は、再びやる気にはならない」と書かれているが、ミステリーを書き続けてくれたことに感謝したい。
「釘を引き抜く音」というのが随所に登場する。ページは文庫の完全改訂版のもの。
- p49: 良子の引越し中、河原に立ち寄った場面。夕暮れの金色をバックに、シルエットの良子が廃船と岸との間をぴょんぴょん飛んだとき。
- p98: 横浜に遊びに行き、船に乗っているとき。
- p.214: かつて暮らしていた (ということにされた) 墨田区の家を訪れる前。
御手洗は、シリーズの後の方では脳科学者になってしまうのが残念なのだが、この作品では見事な占星術師の変人である。御手洗の名言。
- たぶん僕でしょう!
- 名前というものは記号にすぎません! ... 人の名前が、予言者の警句ほどに哲学を秘めているならいざしらず、いの一番、ろの三番と書いた風呂屋の下足札と同じです!
- 儲けるというのは、一万とか千とか数字が印刷してある紙切れをやみくもに集めまくる、例のあのセンスの欠如した趣味のことでしょう?
- 皆さんに、僕が最後に要請することはただ一つ、パーキングメーターのデザインは腕の形にして、ソデの下にコインの投入口をつけるようにして欲しい
- 益子君、かかってるじゃないか
- 陽気なやつでも聴こうよ
地の文で好きな表現。事件が解決した後の石岡のモノローグは圧巻。
- 砂糖壺のありかも解らない人間に、依頼人の過去が捜し出せるとも思えなかった。
- 異性に対する強い愛情は、悲しみと相性が良いということに、この時はじめて気づいた。
- ... 良子の小指の細い糸は、確かに私とつながっていたと今は思う。たがそれはあまりにか細く、私を救うために切れたのだ。
- しずしずと曲が始まり、一人一人ミュージシァンが自分の楽器で順にソロをとっていき、最後にチック・コリアのピアノの番になる頃、決まって私は、鉄の馬に跨り、颯爽と夜の荒川土手に現れた、二十代の御手洗潔を思い出す。
音楽の記述も魅力的である。自分にジャズが理解できるかどうかわからないが、聴いてみたいのは、まずきらきらした光を連想させるドビュッシーのアラベスク。チック・コリア。リターン・トゥ・フォーエバーの「浪漫の騎士」。ウエス・モンゴメリーの「エアジン」。
第二位: アトポス
第三位: 占星術殺人事件
第三位にはやはり原点のこの作品。金田一少年の事件簿 でのトリック流用で問題になった。
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