東野圭吾 白夜行と幻夜

UBH/novel/mystery/higashinok_white_night

このページの最終更新日: 2023/06/08


  1. 白夜行 あらすじ (小説)
  2. 白夜行 映画
  3. 白夜行 解釈: 笹垣とは違った解釈

  4. 幻夜 (小説)

白夜行 (小説) あらすじ

1999 年に出版された小説。読んだのは遠い昔だが、とにかく面白かったことだけは覚えていた。再読することができたので、章ごとに簡単にまとめてみる。それぞれの章で、江川の引退とか現実の出来事が書かれていて、年が特定できるようになっている。

雪穂と亮司は綿密に連絡を取り合っているはずだが、二人の関わりの場面は一切書かれない。また、「亮司はこう思った」的な内面の描写もなく、行動のみが淡々と書かれるのが表現上の特徴になっている。

年代は書かれていないが、それぞれの章に具体的な記述があり、何年の出来事がわかるようになっている。網羅的ではないが、各章の部分に記載していく。

第一章 (1973)

桐原亮司と西本 (のちに唐沢) 雪穂の小学生時代。質屋を営んでいた桐原の父が殺され、雪穂の母に容疑がかかる。しかし決定的な証拠はなく、雪穂の母も死亡 (ガス自殺?) する。雪穂の賢さ、亮司の暗さは描かれているものの、まだ彼らが犯罪に関与しているという雰囲気はない。

5 月に「あしたのジョー」の連載が終了。この漫画は 1968 年 1 月 - 1973 年 5 月に少年マガジンに連載された。また、第四次中東戦争は 1973 年 10 月の出来事である。

第二章 (1977)

雪穂が中学生になり、盗撮されている。殺人事件が 4 年前と書かれているので、1977 - 78 年。イニシャルRK と藤村都子が襲われる事件から、怪しい気配が漂ってくる。

第三章 (1979)

亮司が斡旋する怪しいバイトの話。彼らは高校生になっており、亮司のヤバさが増している。雪穂は登場しないが、花岡夕子になりすました女性がおそらく彼女か。友彦が配下になる。

キャンディーズの解散が 1978 年なので、舞台は 1979。インベーダーゲームのブームはこの頃のようだ。

第四章 (1979)

雪穂の家庭教師や養母が登場。亮司のコンピューターゲーム「サブマリン」が、実は雪穂が盗み出したものであることが示唆される。雪穂の母親の死にも疑惑が立ち上ってくる。

ヤクルトの優勝が 1978 年なので、これも第三章と同じく 1979 年の出来事。1977 年発売のマイルドセブンにも言及あり。

第五章 (1981)

雪穂は大学生になり、ソシアルダンスのサークルに入る。友達だった江利子が可愛くなって、製薬会社の御曹司、篠原一成と付き合うようになったのを嫉妬。おそらく亮司に江利子を襲わせる。

一成が一目で雪穂の腹黒いところを見抜いたのはすごい。松田聖子の歌手デビューは 1980、よってこの章は 1981。

第六章 (1980 - 1981)

亮司がキャッシュカードの偽造をしている。出回り始めたころのキャッシュカードは、暗証番号が記録されていたらしい。第五章で、雪穂がダンス部のキャッシュカードを持ち出せたこととリンク。

はっきり書かれてはいないが、亮司は自分が変装して現金を引き出したあと、変装道具を西口奈美江に渡し、所在をエノモトに教えたのか。

うる星やつらは 1978-1987 で、これだけでは年の特定はできない。ガンダムは 79-80 で、プログラムが著作権の対象となる判決がアメリカで 1980 に出ているという記載もある。総合的に判断して 1980 または 1981 か。

第七章 (1985)

雪穂の結婚話。旦那が結婚式の直前に派遣社員に告白しそうになるが、盗聴と亮司の活躍で事前に阻止。

労働者派遣事業法は、おそらく 1985 年に公布された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」のこと。

第八章 (1985)

雪穂の妊娠がフェイクであったことが示唆される。亮司の両親の質屋を手伝っていた松浦が登場。スーパーマリオの偽造。「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」というタイトルに繋がる亮司のセリフ。亮司を父親殺害事件からずっと追っている刑事ササガキも登場。切り抜きが手を繋いでいる女の子と男の子というのも暗示的だ。

スーパーマリオの発売は 1985 年。

第九章 (1988)

高宮誠と雪穂が結婚している。高宮、人間が小さい。「これだけ待たせて、結局手抜き料理なのかっていってるんだよ」。共働きなら、自分のメシくらい自分で作れ。後半、高宮が三沢千都留と出会ってから夫婦仲がぎくしゃくしてくるのは痛々しい。酔って殴ったというのは雪穂の嘘だろうが。

青函トンネル開通が 1988 年。本文中に1987年という記述もある。

第十章 (1991)

高宮と離婚した雪穂に、篠塚一成の従兄弟との結婚話が持ち上がる。ただし、篠塚は江利子の一件から雪穂を疑っている。経営しているブティックショップの資金源についても怪しみ、探偵の今枝に依頼。

日航機墜落は 1985、それが 6 年前なので 1991。

第十一章 (1991)

篠塚が探偵の報告を聞く。今枝にも感情移入しかけたところだったが、この章の最後で亮司に襲われてしまう。

雪穂がブティックを開いたときの資金源は、たぶん亮司がキャッシュカード偽造で引き出した金。年代の情報を見逃したかもしれないが、前章の続きで 1991 か。

第十二章 (1991)

亮司が栗原典子をたぶらかし、青酸ガスを手に入れた経緯が語られれる。つまり時系列的には十一章よりも前の部分がある。笹垣と篠塚が出会う。「長い物語みたいなものです。それが始まったのが十八年前。けど、物語はまだ終わっとらんのですわ。決着をつけるには最初に戻らんといかん」。亮司が典子と大阪に出かけて何かをし、その後雪穂の養母が急死する。

Say Yes も 1991。

第十三章 (1991-1992)

長い最終章。出だしは笹垣と、今枝の相棒・菅原絵里。さらに優秀な後輩刑事・古賀。彼らの会話から、雪穂への疑惑がさらに膨らんでゆく。雪穂は篠崎一成を前章で誘惑するも思い通りにならず、45歳の会社役員・篠崎康晴と結婚。子供の美佳はそれを不満に思うが、女性を懐柔するにはレイプという方法論を既に確立している雪穂に陥れられる。

笹垣の話から、確定的ではないものの、過去の事件などの真相が浮かび上がってくる。亮司の父は幼い雪穂にいたずらをしていた模様。美佳へのセリフから、悪者は複数か。姑獲鳥の夏にもあるように、こういうのは尾を引く。「白夜」という言葉は使われていないが、雪穂も真っ暗ではない夜を歩いてきたとのこと。雪穂の店も R & Y で、実は彼らのイニシャルそのままだ。

松浦の死体が唐沢家の庭から見つかる。亮司の父が雪穂を母から買っており、雪穂を幼女にしようと動いていたのが最初の事件を引き起こす決定打だった。「彼らは自分たちの魂を守ろうとしているだけなのだ。その結果、雪穂は本当の姿を誰にも見せず、亮司はいまも暗いダクトのなかを徘徊している。」

笹垣に発見され、迷わず死を選んだ亮司の衝撃的なシーンで、20 年近くに及んだ物語は余韻を残しながら終了する。見向きもせずに去ってゆくのが雪穂なりの答え方、彼女を守ろうとした亮司への愛情なのだろう。

白夜行 (映画)

白夜行は 2005 年に舞台化、2006 年にテレビドラマ化されている。映画は2009 年に韓国で、2011 年に日本で作られている。

映画は気になっていながらも観る機会がなかったのだが、2022 年のカタールワールドカップを観るために Abema をインストールしたところ、日本版の映画が無料だったので視聴。その前にこのページを読んで復習し、感想をここに記入しておく。こうやってページを作ってアップしておくと、それをもとに次の経験をもっと楽しめるようになるのを実感する。大袈裟な言葉で言えば、人生が豊かになっているような気がする。

映画は Amazon でも視聴可能 (日本版韓国版)。映画のコメント欄も面白い。興味があれば一読を。

高宮、篠塚一成、篠塚康晴が合体して一人の人物になっている。これに伴って 7 - 10 章など結婚系の章が短縮されており、また亮司中心の 4 章、6 章あたりが削除されている。しかし、全体に雰囲気やストーリーは小説をよく反映したものになっていると思った。

小説を再読して気づいたが、怪しいバイトで知り合った西口奈美江と、青酸カリの栗原典子も合体して一人の人物になっている。

白夜行 解釈 (笹垣とは違った解釈)

亮司の父が性的虐待をしていたのは、実は雪穂でなく亮司だったという解釈をしている海外のサイトをみつけたので、その視点で再読してみた。かなりありそうな推理でこれも興味深い。実際、白夜行では心理描写は基本的にないので、登場人物が何を考えているかはわからず 笹垣の推理が正しいという保証もない

  • 第一章、亮司が両親と寝ていると聞いて、笹垣が「夫婦生活はどうしているのだろう」と不審に思う場面がある。確かに、小学生で両親と寝ているのは少し変かもしれない。
  • 同じく第一章。やや弱い根拠だが、もし西本文代や雪穂が桐原洋介と関係があったとしたら、もう少し暮らしは裕福でも良いのではないか。
  • 第八章などでみられる、亮司の松浦に対する態度。友彦が考えているように、単に父親が死んだ後に働いているだけだったら、亮司の性格からして「恩人」扱いをするだろうか。母親との関係があった場合も同様。「亮司が父親からされていたことを黙っていてくれた」のが恩なのではないか。
  • 雪穂は、小学生の頃には風と共に去りぬも読んでいて十分に強かった。黙ってされるままにはなっていないのでは。
  • 亮司も性的なトラウマを抱えている。桐原洋介が亮司を溺愛していたという表現もある。亮司が父を慕っていたとも書かれているが、それは虐待前の関係だとしたら。
  • ただ、映画だと単に桐原洋介が子供に興味があったと言っていたような気がするんだが、小説だと幼女とはっきり書かれている。弥生子が嘘をついていたと考えないと、この解釈は成り立たなそうだ。もしくは、少年にも少女にも…と考えることもできるか?
  • 母親と松野の行為を聞かされるだけでも、亮司が性的な問題を抱えるには十分とも思われる。

幻夜 (小説)

美冬 = 雪穂なのだろうが、それは本文では明らかにされておらず、読者の想像に任せるという形をとっている。ここでは同一人物と仮定して書く。ただ、美冬が終盤で言っているように、雪穂に憧れて、そっくりになるように整形したというのが本当だとしても、とくに矛盾は生じない気がする。

実際の関わりが書かれなかった白夜行の雪穂・亮司ペアに対して、美冬・雅也の関わりは、性的なシーンも含めて細かく書かれる。これはミステリアスな雪穂のイメージを損ない、ちょっと残念。

「あたしらは、きれい事をいえる身分やないねんで」「それが勝負の分かれ道や」など、関西弁のせいもあって単なるギャンブラー姉御のように見えてしまう。

全体的に、白夜行では世界に対する絶望感のようなものが、はっきりと書かれていない分だけ全体を良い感じに覆っていたのに対し、幻夜ではやや通俗な雰囲気になっているように思う。こちらも十分に面白いが、個人的には白夜行の方が好みである。


第一章

半沢直樹の実家のような小さな工場の息子、雅也。バブルが弾けて父が自殺、ろくでもない叔父の俊郎に生命保険料をたかられているときに、阪神大震災が起こる。それに乗じて雅也は俊郎を殺してしまうが、その場面を新海美冬に見られていた。

第二章

美冬は銀座の宝石店で働いている。 同じ職場で働く5人の女性がいずれもストーカー被害に遭っている。

第三章

美冬がカリスマ美容師のはしり・青江をたぶらかす。雅也は職人としての腕で小さい工場で職を得るが、これも実は美冬が他の職人の手を傷つけたから。

第四章

曽我が登場、本物の新海美冬を探す。誰からか不明だが、雅也のもとに殺人をみていたという脅迫状が届き、美冬はすぐに犯人を「取り除く」決意を固める。

曽我は残念ながら行方不明になり、美冬が別人の可能性が示される。

第五章

華屋の社長・隆治と美冬がいちゃいちゃする。一方で雅也は精神を病みつつあり、マグロの刺身が食べられないなどは生々しい。

加藤が曽我の失踪事件を調べて美冬に引っかかりを覚える。「腕のいい金属職人」にも何かをかんじる。

第六章

美冬と華屋社長の結婚話に怒ったカリスマ美容師・青江が、美冬の会社から独立しようとして嵌められる。ペンダントの件で再び美冬の傘下に入る。

第七章

立体的に宝石を配置する指輪は、浜中の案だったことが明らかになる。浜中は美冬に食ってかかるが撃退される。刑事の加藤が調べを進める。

第八章

華屋社長・隆治の姉である頼江が登場。美冬の義理の姉である彼女は、親族一同とは違って美冬をあまり良く思っていない。とくに昔からの知り合いが周辺に全くいないことを不審に思う。雅也を使って籠絡する。

第九章

頼江とともに、美冬の過去を調べに京都へ行った雅也は、とうとう美冬が別人であることを確認する。「俺が彼女と過ごした夜は、全部幻だったのか—」「何があっても美冬を守る。たとえ彼女との夜が幻であってもー」。一方、刑事の加藤も同じ情報にたどり着いていた。

第十章

加藤が美冬のパートナーを探し、陶芸教室で雅也の名を聞く。美冬も迎撃体制を整える。

雅也は曽我未亡人と話し、曽我による脅迫が美冬のしわざであったことに気づく。続いて、これまでぼかされていた雅也が実際に曽我にしたことが明かされる。

雅也は美冬から離れ、彼女の過去を探る。風と共に去りぬ、ホワイトナイトなどのキーワードも登場。

第十一章

雅也、加藤がそれぞれ調べを進める。本物の新海美冬は、おそらく雪穂の店の従業員だったのだろう。

第十ニ章

美冬がアメリカで大規模な整形。隆治は人工的な感じがして、その顔を好きになれない。雅也は勤めていた工場の設備を借りて銃を密造、美冬を狙う。最後もぼかされてはいるが、銃が暴発して雅也と加藤が死亡、という救いのない結末っぽい。

関連リンク

  1. 『白夜行』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで! Link: Last access 2022/06/23.

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。