私の好きな垣根涼介作品ランキング
垣根涼介
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第一位: ワイルド・ソウル
2003 年初出。ブラジルをはじめとした南米への棄民政策は、この本を読むまで知らなかったので衝撃だった。巻頭に書いてあるように、作者は 2002 年にブラジルとコロンビアに行っていたと思われる。私の中では、山猫の夏 と並ぶ南米譚の最高傑作。
国家は利害関係の絡み合った有機体にすぎず、そんなものを信用してはいけない。日本のモラルが低下したとか、政府が劣化したという言説は常にあるが、実は昔からクソだったというメッセージも、長く記憶に残っている。
衛藤、ケイ、松尾は皆いいキャラクター。貴子もヒロインとしては大概だが、サウダージの和子や DD よりは好感を持てる。「ヒートアイランド」で折田が襲われた南青山のバー Bar. Sinister が出てくるので、実は同じ世界での出来事と思われる。
第二位: ヒートアイランド
渋谷のストリートギャング「雅」を仕切るアキとカオル、裏稼業をターゲットとするプロの強盗? 柿沢と桃井、さらに 2 つの勢力のヤクザたちが四つ巴の戦いを演じるサスペンス。
2001 年の作品で、この記事を書くのに 20 年ぶりぐらいに読んだ。車の詳しい記述が意外と印象に残っていて、今でもインプレッサは非常にかっこいい車という刷り込みがある。
柿沢・桃井は過去エピソードも含めて魅力的。アキはちょっと落ちて、カオルはいまいちだった。キャラの魅力と、軽快なテンポで進むストーリーで一気に読める名作。シリーズ化しており、ギャングスターレッスン、サウダージ、ボーダーの全 4 作がある。
第三位:
その他作品
ギャングスターレッスン
第一位にランクしたヒートアイランドの続編なのだが、ちょっと違うかな、という場面が少し。たとえば最初にアキが言う「バカになりに行った」には違和感。柿沢と桃井はキャラが掘り下げられていて、この二人に関する部分は面白い。ただ、桃井の知り合いのトラックドライバーを後日談で殺してしまう必要はなかったのでは。
アキが一人前になるために、桃井と柿沢のトレーニングを受ける中編集。タイトルのギャングスターは gangster で、ギャングの構成員という意味。gang star で何か英雄的なギャングのことかと思っていたが、そうではなかった。
サウダージ
ほぼ主人公と言える耕一が日系ブラジル人、その恋人 DD はコロンビアと南米色が強い。これは作者の特徴が出ていて良かった。タイトルの「サウダージ」は、ポルノグラフィティの曲にもあったが、郷愁、憧憬、思慕などを意味するポルトガル語。この作品は 2004 年に発表、同じく日本政府のブラジル棄民を背景としたワイルド・ソウルは 2003 年。このテーマに集中していた頃だったのかもしれない。
耕一 & DD をはじめ、品のないエロ場面が多数ある。DD はいくらなんでもバカ過ぎて、また和子はアキをちょっと持ち上げ過ぎ。
午前三時のルースター
デビュー作。舞台はベトナムの首都、サイゴン。大会社の跡を継ぐことが約束されている少年・慎一郎は、ベトナムで死んだと思われていた父がテレビのドキュメンタリーに出ていることを発見する。祖父の頼みで、主人公の「おれ」は慎一郎とともにベトナムに向かうが、そこで予想外の危険に遭遇する。
序盤はサスペンス感たっぷりで、一気に物語に惹き込まれる。活気のあるベトナムの風景が思い浮かんでくるような作品。「ルースター rooster」は、成熟したオスのにわとりを指す英語。とくに、朝の鳴き声と関連づけられることが多い単語だ。ちなみに成熟したメスは hen で、こちらは「卵を産む」文脈で使われることが多い。chicken はオスメス両方だが、食材としてのイメージが強い。
「ルースター」は最後の最後まで出てこない。主人公の長瀬が明け方のルースターの声を聞き、成熟して (あまり良くないニュアンスで) 安定してしまった日本と、雑然として活気のあるベトナムを対比する。
登場人物たちが、せいぜい一週間分ぐらいの報酬で命のやりとりに踏み込むのがちょっと不自然か。一年分は欲しいだろう。エンディングは、慎一郎がかなりあっさりと「未知に挑戦していく人生」を投げ捨てる。このあたりは、第一位に輝いた「ワイルド・ソウル」の方が練り込まれている気がする。
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