おすすめ漫画: 手塚治虫「アドルフに告ぐ」のレビュー

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このページの最終更新日: 2024/01/23


1936 年、ベルリンオリンピックの取材のためドイツに派遣された記者・峠 草平は、ドイツ留学中の弟・勲と会う約束をする。しかし、勲は草平が待ち合わせに遅れている間に殺されてしまう。

さらに、警察に輸送する間に勲の遺体が行方不明になり、住んでいたアパートには別の人が暮らしていたことになっていた。何か大きな力が働いている!

引き込まれる導入から始まる歴史漫画。「ヒトラーがユダヤ人である」という隠された事実を巡って、3 人のアドルフが巻き込まれる悲劇的な運命を描く。いくつか「名言」として引用したように、テーマは「正義」。著者はあとがきで「民族主義のぶつかりあいで正義対正義のぶつかりあいだから、どうしようもない図式になっている」と書いている。

アドルフに告ぐ 評価チャート

主人公

「アドルフに告ぐ」は、3 人のアドルフに関する物語である。二人がまだ仲が良かった少年時代のスクリーンショットを載せておこう。ケーキを投げつけられているのがカウフマン、それをかばっている関西弁がカミル。

アドルフ・カウフマン

日本総領事館員、ナチス党員の父親をもつアドルフ。母親は日本人。第一巻では、ユダヤ人アドルフを仲の良い純朴な少年だったが、ナチスの幹部養成学校へ行って変わってしまう。カミルの婚約者になっていたエリザを襲い、ユダヤ人を「下等な寄生虫」などと評するようになってしまったのはとても残念。

名言

  • おれの人生はいったいなんだったんだろう あちこちの国で正義というやつにつきあって そしてなにもかも失った・・・ 肉親も・・友情も・・俺自身まで・・ おれはおろかな人間なんだ だが おろかな人間がゴマンといるから 国は正義をふりかざせるんだろうな

アドルフ・カミル

ユダヤ人のアドルフ。日本生まれ、パン屋の息子。成長後も神戸に留まり、パンを売りつつユダヤ人のネットワークを作っている。

最終的には、第二次世界大戦後の 1948 年に建設されたイスラエルに移動し、パレスチナ解放戦線に加入していたアドルフ・カウフマンと戦うことになる。タイトル「アドルフに告ぐ」は、このときにカウフマンが刷ったビラの言葉であり、峠草平が書き遺す物語のタイトルでもある。

アドルフに告ぐ

ヒロイン

エリザ・ゲルトハイマー

ドイツに住んでいる裕福なユダヤ人一家の娘。彼女に一目惚れしたアドルフ・カウフマンによって、日本へ亡命する。日本ではアドルフ・カミルとの仲が深まり婚約するが、カウフマンはこれを許せず、エリザを襲ってしまう。これが二人のアドルフの友情が破綻する原因となる。最終的には、カミルと結婚してイスラエルへ。峠草平とともにラストシーンを飾る。

アドルフに告ぐ

サブ

峠 草平 (とうげ そうへい)

協合通信という会社に勤める記者。弟の勲がドイツで殺されたことをきっかけに、事件に巻き込まれていく。

アドルフに告ぐ 峠草平

名言

  • ・・ そしてその息子が孫のアドルフに・・ やがて世界中の何千万の人間が・・ 正義ってものの正体をすこしばかり考えてくれりゃいいと思いましてね・・

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雑感

1936 年のオリンピックは、ヒトラー体制のドイツで開催された、プロパガンダ色の濃いオリンピック。各章の間に年表が出てくるなど、歴史に興味が湧くストーリー。

手塚治虫のあとがきによると、ヒトラーの父方の祖母がユダヤ人に犯されたのは事実らしい。ヒトラーにユダヤ人の血が入っていることを証明する文書があるというのは創作。また、終わりの方ではもっと多くの登場人物に決着をつける予定だったらしいが、連載や単行本出版との関係で、描けたのは二人のアドルフの対決のみだったようだ。

イスラエルは、建国後に何度も戦争を起こして、領土を拡張していったようだ。この戦争は中東戦争と呼ばれる。

実在の人物も多く登場しているようだ。ユダヤ人迫害の歴史には興味があるので、これを軸にいろいろ発展させられそうな、しっかりとした漫画。もちろんフィクションなので、史実との違いはたくさんある。Wikipedia にかなり情報がある。

読んでおきたい本: ユダヤ人はなぜ迫害されたか (Amazon link)、【中古】ユダヤ人はなぜ迫害されたか /ミルトス/デニス・プレ-ガ-(単行本)


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