高橋克彦 竜の柩の感想

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このページの最終更新日: 2023/12/29

  1. 概要
  2. さまざまな仮説

概要

神は宇宙人で、龍は神の乗り物のロケットという想定の壮大なファンタジー。九鬼虹人を他の登場人物が持ち上げすぎで、ギャグも非常に古めかしいが、それでも引き込まれるストーリー。スケールの大きい話 が読みたい人におすすめ。



全体のバックグラウンドストーリーは、こんな感じになっている。

紀元前 4000 年ごろ、メソポタミア周辺で地球を支配していたエイリアンの内戦が起こる。「牡牛の一族」と「龍の一族」と表現されている。

牡牛の一族の方が勢力が強く、龍の一族は東へ敗走を続ける。これをもとに生み出されたのがインド神話や日本の国譲り神話。この内戦には核兵器も使用された。その様子が神話にも記述されているし、モヘンジョ・ダロ周辺には証拠となる遺跡も存在する。また、龍の一族は製鉄が得意であったため、これと関連する伝説も残されている。

全 6 巻で、以下のように構成されている。出版社などによって、タイトルが違っていたり、複数の巻がまとめられていたりするので注意。

  • 1 巻: 日本の古代神話が中心。 津軽、ピラミッドなど。
  • 2 巻: ノアの方舟が発見された話。舞台はシュメールへ。
  • 3 巻: 過去の地球、牡牛と龍の戦いに巻き込まれる。
  • 4 巻: 過去の地球にいることを確かめるため日本へ。牡牛の神と決着。
  • 5 巻: 戻る時間を間違って、大正時代の日本へ。
  • 6 巻: ロンドンへ。幽霊とタイムトラベル。

5 巻、6 巻は「霊の柩」としても売られている。宮沢賢治、コナン・ドイルなどが登場、幽霊と時間旅行の話になり、若干のスケールダウンが認められる。パラレルワールドの話もちょっとわかりにくい。が、オチとして鹿角が一緒に帰れるようになったのは良かったと思う。

さまざまな仮説

いわゆる「世界の不思議」が、龍 = ロケット、神 = エイリアンという考えのもとで説明される。小説のなかでは非常にもっともらしく説明されるので、どこまで本当なのか が非常に気になる。

面白かった話をまとめつつ、何が本当で、何がフィクションなのかという情報を追加していく。

龍 (蛇) と牛

龍はロケットであり、キリスト教の神は牡牛系の宇宙人である。これとは別に、龍系の宇宙人がいる。彼らはもともと同じ種族だが分裂した。西欧文明では龍は悪者だが、中国などでは神ということになっている。

漢和辞典で調べると、「龍」という字には尖ったもの、恐れ敬う存在、光と雷、支配といった意味がある。龍孫が筍を意味するのは本当のようで興味深い。龍の字は音を表すと説明されているようだが、この小説ではロケットの形態から説明。

中国最古の王朝、夏の支配者は蛇身人首と人身牛首とされている。これも本当。

聖書の出エジプト記で、モーセが神に会っている間にユダヤ人たちが金の牡牛の偶像を作る。偶像を禁止していた神は、これを知って激怒。これは本当で、実際に聖書にこのように記載されている。

諏訪大社の御柱、ストーンサークルなどはロケットの形から。これがのちに男根信仰に置き換えられた。御柱やストーンサークルの形状は本当だが、それ以外はよくわからない。

宗像教授 伝奇考 という似たような雰囲気の漫画があり、それでは龍は氾濫する河川の象徴であり、中国では氾濫よりも旱魃が問題だったため、恵みの雨や龍は良いものだっと説明されている。

十和田文化圏

津軽地方には栄えた古代文化圏があったという考え方。

天孫族の神武に追われた長髄彦ら龍の一族は、出雲から東へ逃げ、東北に新たなヒノモトを立ち上げた。二つの日本が同時に存在し、対立していたという立場をとる。

神武東征を東北への攻撃と考えるのは、ちょっと珍しいか。神武は九州から近畿へ東征したという話をどこかで読んだ気がする。国譲りは支配者側の理屈で、実際は戦争だったというのは一般的な理解と思われる。

5 万年前から超高度な文明が栄えていたとか、キリストが日本まで逃げ延びてきた等はさすがにトンデモであるが、「東北地方には、これまで予想されていたよりも大きな集団が暮らしていた」という説は、それほど非科学的ではない。

1992 年から本格的な調査が始められた青森県の三内丸山遺跡は、縄文時代 (5900 - 4200 年前) の遺跡と推定され、栗、ゴボウ、豆などを栽培していたことが示されている。縄文時代の東北地方に暮らしていた人々は、狩猟採集のみで生きていたわけではなく、ある程度まで発展した農業集落を作っていたことを示す貴重な遺跡である。


都母の石碑 (つぼのいしぶみ)

「壺の碑」と書かれることもあるようだ。これは、もともと「得体の知れないもの」「はるか遠くにあるもの」の意味として 、和歌で歌枕として使われてきた言葉らしい (参考、2020 年の記事)。

1949 年、青森県東北町で「日本中央」の文字が刻まれた巨石が出土。小説で触れられているのはこれのようだ。これは「日本中央の碑」として博物館に保存されている。ただし、これが和歌に歌われている「壺の碑」であるかどうかは不明。

江戸時代、現在の宮城県で発見された巨石も「壺の碑」の候補である。これには多賀城の創建などに関する内容が刻まれている。

坂上田村麻呂は、記録上は現在の岩手県までしか到達しておらず、これは青森の「日本中央」にとってはやや弱い材料。ただし、青森県に到達していないとはもちろん言えず、坂上田村麻呂の跡を継いで征夷大将軍になった文室綿麻呂は青森まで到達しているようである。

石碑に刻む文言としては、「日本中央」の方が多賀城の建設よりもふさわしいように思える。

現在の青森県東北町周辺は、かつて「都母村」と呼ばれていたようである。これが「つぼのいしぶみ」という言葉のもとになったと考えもあり、この小説ではその説に基づいて「都母の石碑」という漢字を当てている。


ヤマタノオロチ伝説

ヤマタノオロチは、日本神話に登場する 8 つの頭をもつ蛇である。日本書紀では八岐大蛇、古事記では八俣遠呂智と表記される。

ごく簡単に述べると、大暴れして天照大神の岩戸隠れを引き起こしたスサノオノミコトが、地上に追放される。そこで足名椎命と手名椎命、その娘の櫛名田比売をヤマタノオロチから救い、草那藝之大刀 (天叢雲剣、いわゆる草薙の剣 ) を手に入れる話である。

『日本略史 素戔嗚尊』に描かれたヤマタノオロチ、月岡芳年

『日本略史 素戔嗚尊』に描かれたヤマタノオロチ、月岡芳年による。Public domain。

以下、一般的な解釈。洪水と鉱山の開発に結び付けられているらしい。

  • ヤマタノオロチは高志 (こし) の国からやってくる。これは「越の国」で、現在の福井、新潟、山形あたり。
  • ここに斐伊川と呼ばれる川があり、ここにダムのようなものを建設して洪水を防いだ偉業を讃える伝説とされている。
  • 体から発見された太刀は、斐伊川の上流にある産鉄地帯と結び付け、ここに鉱山を開発したことの比喩。

小説では、ダムの建設は龍退治よりも大きな事業なので、この比喩はおかしいとしている。実際に龍を信仰する一族がいて (頭の数に合わせて 8 つの部族など)、牡牛の一族のスサノオノミコトがこれを平定したと解釈。剣のエピソードも、龍の一族が製鉄をよくしたことに対応するとする。


インド神話

インド神話は、あまりにも長い間語られ続けてきたため、分析が難しい。全体の構造は日本神話に似ている。空中戦の描写などが多く、これを実際の戦争と解釈。

女神カーリーは、身の毛のよだつ高笑い (爆弾投下時の風切り音) を上げて、1 個で夥しい死者の山を築く核兵器であった。

モヘンジョ・ダロ

現在のパキスタンにあるモヘンジョ・ダロは、紀元前 5500 年ごろ、インダス文明の遺跡とされている。整然と区画された市街と、水洗トイレなどを含む高度な社会的インフラが特徴である。紀元前 2000 年ごろまで、長い間にわたって存続したとされている。

王宮、神殿などの権力を象徴するような建物が見つかっていないこと、比較的短期間の間に滅亡したことも事実のようだ。また、大きなプールのような施設があり、これは great bath と呼ばれている (写真, 1)。

モヘンジョ・ダロのプール

この小説では、モヘンジョ・ダロは、放射能のために人々が去ってしまい、そのまま残された街ということにされており、近くに爆心地と思われる「ガラスの街」がある。

ジッグラト

良い排水設備があるが、砂漠の中なのでそもそも雨は少ない。空中庭園があったというのが定説らしい。この小説では、最上階にはプールを必要とする神がいた。

キリスト教の誕生

歴史上、異なる三つのバビロニア帝国があり、その盛衰がキリスト教の発展に繋がった。ヤハウェが牡牛の神で、バビロニア帝国などをうまく利用して、自らを讃える宗教を作り出した、という話。

B.C. 1800 - 1500 ごろ、300 年にわたって栄えたのが第一次バビロニア帝国。有名な王に、ハンムラビ法典のハンムラビがいる。当時、メソポタミア地域の神々の頂点に立っていたのはエンリル。神たちの留守を狙って、バビロンのハンムラビと、その守護神である下級の神マルドゥクがメソポタミアを武力で支配。さらに、マルドゥクは自らをエンリルと同等の神と偽って宣言。神々の間の下克上である。

神をころころと入れ替えるのは、人々の信仰心を失わせるので避けたい。エンリルは、本来牡牛の一族だが、龍の一族に支配されていたメソポタミアを攻撃、征服したあとは龍の神として振る舞っていた。この理由から、エンリルはハンムラビの反乱に対して戦争を起こすことを諦め、別の民族を支援してバビロニアに恨みを晴らすことにした。それがイスラエルの民。つまりエンリル = ヤハウェ = ユダヤ教・キリスト教の神。

ヤハウェはまずバビロニアの滅亡を預言。陰でヒッタイトやアッシリアを動かし、この預言を成就させる。しかし、これでは気が済まず、さらにバビロニアを目の敵にし続ける。

B.C. 1100 ごろから約 150 年続いた第二次バビロニア帝国。初代の王はネブカトネザル一世。同時期、イスラエルはダビデ・ソロモンの最盛期。バビロニアは第一次ほどの勢いもなく、イスラエルに吸収されて消滅する。

しかし、イスラエルはヤハウェの思惑を超えて発展。経済発展によって信仰心が薄れ、さらに過去に脱出したエジプト、バアル神 (龍の神) を進行する海洋国家フェニキアなどとも交流を始める。これに怒った神は、エレミアという若者を選び、イスラエルの滅亡を預言させる。

神はエレミアに自らを信用させるため、まず UFO を見せる。これは聖書のエレミア書に「焼けた鍋」と記述されている。これが北の空に浮かんでおり、北からやってくる災いの象徴とされた。イスラエルの北には、滅びたバビロニア帝国があるのみ。なお、聖書の解釈では、実際に攻め込んできたのがバビロニアだったので、鍋はバビロニアの比喩ということになっている。

ホゼア、バルクなど、他の預言者もいたようだ。さらに、預言どおりイスラエルを滅ぼしたのはネブカトネザル二世を名乗る王だった。イスラエルの民の多くは、バビロニアに捕虜として連行された。これがバビロン捕囚。

さらにヤハウェは、イスラエルの民に対してバビロニアの滅亡を預言。イスラエルの民が許される日がくるとした。これらの言葉は、エゼキエルとダニエルという二人の預言者を通じて伝えられた。

このような一連の出来事を通じて成立したのがユダヤ教。実際に、旧約聖書の 1/3 近くはバビロニア関連の記述と書かれている。

関連サイト

  1. By Saqib Qayyum - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31519713.

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